ハンコのための出社はもう止めよう。テレワーク実現への決め手は電子契約

ハンコのための出社はもう止めよう。テレワーク実現への決め手は電子契約

日鉄ソリューションズ株式会社
齋木 康二
監修 宮内水町IT法律事務所
弁護士 宮内 宏

テレワークを阻害する「ハンコ」

テレワークが推奨される昨今の状況の下、ハンコを押すため、もらうためだけに出社している人がたくさんいます。

社内打ち合わせはWeb会議ツールを利用して在宅で、取引先との商談も同様にWeb会議で実施できます。書類の作成は、仮想デスクトップ、リモートデスクトップ、クラウドストレージなどを活用して在宅で対応できました。作成した見積書、契約書の決裁もワークフローシステムを活用して在宅のまま進めることができました。しかし取引先に送付する見積書、契約書、注文書にはハンコを押す作業が必要です。

ハンコを押すにはPCで作成したファイルをまず紙に印刷し、社内の保管庫からハンコを出してくる必要があるため、押印業務のために出社する必要が出てくるのです。納品書も請求書も同様です。受け取った取引先も注文受書、契約書、受領書、検収書にハンコが必要です。もちろん取引先もハンコ作業に関わる人は出社します。紙とハンコはテレワークの実現を阻害する最後の障壁と考えられるかもしれません。

文書の成立が真正であることの証明にハンコが必要だった

ではなぜ取引書類にはハンコが必要なのでしょうか。社内文書であれば、ワークフローシステムの導入でハンコを廃止することもできます。しかし契約書や注文書など取引文書にハンコは欠かせません。取引文書の場合、取引先との万一の訴訟に備える必要があるからです。取引書類に本人のハンコがあれば、裁判所が証拠として認めてくれる可能性が高くなるのです。

当然のことですが裁判所に文書を証拠として提出する場合、証拠を提出する側がその文書が偽造ではないことを証明する責任があります。証拠文書を提出するための要件を定めた(文書の成立)民事訴訟法第228条第1項では「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない」とあります。「成立が真正である」とは、本人が自分の意思で作成した文書であるということです。裁判の証拠として提出する文書については、その文書を提出する側が「成立が真正である」ことを証明しなければ証拠にならないのです。

しかし文書の「成立が真正である」こと、つまり偽造ではないことを証明するのは容易ではありません。そこで民事訴訟法は第228条第4項において「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と明記し証明をしやすくしています。本人かその代理人の署名またはハンコさえあれば、その文書の「成立が真正である」ことを法律上推定してくれるわけです。だから取引書類には、ハンコが必要なのです。取引書類にハンコを押すことには法的根拠があるのです。

丸印と角印の法的効力の違いとは

少し横道にそれますが、前述の民事訴訟法第228条第4項に照らし、会社で利用されるハンコの効力について考えてみます。会社にはいろいろな種類のハンコがあります。例えば丸印、角印、役職印(事業部長印、部長印など)、銀行印、取引口座印、日付印などです。どのハンコであっても「本人の押印」という法律要件を満たせば「真正に成立したものと推定する」という同じ法律効果を得ます。それぞれの違いはそのハンコが「本人の押印」であることの証明のしやすさです。

会社のハンコで最も「本人の押印」であることを証明しやすいのは丸印です。丸印は会社設立時に法務局に社長、会社代表者の印鑑として届出を行い、以後請求により法務局が印鑑証明を発行します。丸印が会社の実印と呼ばれるのはそのためです。取引書類に丸印が押印され、その印影が法務局により発行された印鑑証明と同一であることが確認できれば、その取引書類は、印鑑証明に記載された会社社長、代表者の「本人の押印」があることになり、余程のことがない限り、その「成立が真正であること」が法律上推定され、裁判の証拠となり得ます。

意外なことに会社で利用されるハンコの中で、公的機関から印鑑証明が発行されるのは丸印だけで、角印にも役職印にも印鑑証明はありません。不動産など高額な取引に丸印が用いられることの理由のひとつがこの点にあります。ちなみに法務局に登録した会社社長、代表者の印を丸印とよびますが、法律上の要件として丸い形状であることを求めているわけではありません。単に習慣上、丸い印を用いることが多いだけで、例えば四角い印鑑でも登録できます。

丸印の次に「本人の押印」であることを証明しやすいのは、銀行印や取引口座印ではないでしょうか。前者は銀行が、後者は企業の購買部門などが、取引先の登記簿謄本や財務諸表、代表者の印鑑証明などを取り寄せ、実在性や信頼性を確認し、印鑑の印影を銀行印や取引口座印として登録・管理するものです。万一の訴訟に備え、銀行印、取引口座印の登録を行っているわけですから、口座開設時に入手した資料や印影を用いて取引書類に押された印がまちがいなく「本人の押印」であることを容易に証明できると考えられます。

その他の印、つまり角印や取引先口座登録のない役職印、日付印については、公的機関の印鑑証明や事前に提出された口座開設資料がないぶん、その印影が「本人の押印」であることの証明は難しくなると考えられます。

電子署名はハンコにおける印鑑証明のようなもの

さて話をもとに戻します。取引文書にはハンコが必要、だからハンコをもらう担当者も押す決裁者も出社する、取引先の担当者も決裁者も出社する、テレワークの徹底が難しくなる。取引文書にハンコが必要なのはハンコに法的効力があるから、という話でした。

この問題を解決する方法の一つが電子署名です。電子署名は、ここまで述べてきたハンコと同様にある文書が間違いなく本人が作成したものだと証明するためのものです。(「電子署名とは」をご参照ください)ただハンコとの違うのは、紙ではなく電子ファイル直接に押す(付す)ことができる点です。取引文書の場合、ほとんどの文書が電子ファイルをわざわざ紙で印刷してからハンコを押していますが、電子署名の場合は電子ファイルを印刷する必要はなく電子ファイルに直接付すことができるのです。

また、この電子署名には署名が間違いなく本人のものであることを証明する電子証明書が含まれています(「電子証明書とは」をご参照ください)。これはハンコにおける印鑑証明に相当するもので、印鑑証明の場合は法務局や自治体が法令に従って本人確認を行い発行しますが、電子証明書の場合は認証局(「認証局とは」をご参照ください)という第三者機関が電子署名法などの法令や、認証局自体が公表したポリシー(Certificate Policy, Certificate Policy Statement)に従い、本人確認(認証)業務を行って発行します。認証局には法務局や自治体など公営のものから民間のものまで種々あり、本人確認(認証)方法も厳格なものから簡易なものまで様々ですが、公表されたポリシーによりその信頼性を判断することはできます。

さらに電子署名については、電子署名法第3条に「・・・・本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る)が行われているときは、真正に成立したものと推定する」と明記されています。この「真正に成立したものと推定する」という文言は、ハンコの法的根拠として前述した民事訴訟法228条第4項の「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と同一であり、一定の要件のもと電子署名は本人の押印と同じ法律効果をもつといえます。この面でも電子署名はハンコを代替できるのです。

電子印鑑と電子署名の違い

昨今、電子署名に似た「電子印鑑」という名称のサービスが販売されています。電子印鑑サービスを利用する場合、印影のイメージ(画像)を電子ファイルに付することはできるものの電子署名は含まれていないことがあるので注意が必要です。電子署名のように第三者機関である認証局が本人確認を行うプロセスがないため、誰の「電子印鑑」か証明することが難しく、また何より「電子印鑑」には電子署名法第3条のような明確な法的根拠がないからです。

将来、「電子印鑑」に一定の法的効力を認められる可能性はないとはいえません。しかし本記事の執筆時点では、法的根拠が明確でないものを社外との取引文書などに利用することはおすすめできません。電子印鑑を導入しても結局ハンコが残ってしまい、社員の出社も必要になる、という状況は避けたいものです。

ハンコのための出社は電子契約で不要にできる

ハンコを電子署名で代替できるのであればハンコだけのために出社する必要はなくなります。取引文書はPC上で作成し、ワークフローシステムで回付・決裁し、電子署名を付してインターネット経由で取引先と取り交わし、サーバー上で保存すればよいのです。

この、電子文書に電子署名を付し、インターネットを経由してクラウド上で取引先と取引文書を保存する、という一連の流れをパッケージとしてサービス化したものが電子契約サービスです。電子契約サービスの導入により取引文書、つまり見積書、契約書、注文書、注文請書のいずれも、インターネット上で取り交わすことができるようになります。電子契約でハンコのための出社を無くすことは、テレワークの徹底を実現するためのラストピースといえそうです。

各業界向け電子契約サービス

今回はBtoB(企業間)取引を念頭に、主に民事訴訟法、電子署名法など民事訴訟の証拠力の視点から電子契約について説明してきました。

実際の企業が行う取引には、BtoB以外にBtoC取引も多く、関連する法律も税法、下請法や業界により建設業法、宅建業法、貸金業法など種々様々です。弊社では、汎用的な企業間取引向け電子契約サービスのほか、金融業界向け、不動産建設業界向けなど、取引の形態にあわせた各種電子契約サービスを提供しています。

以上

電子契約サービス市場の従業員規模1000人以上において6年連続シェアNo.1

NSSOLの電子契約サービスは、ハンコやサインの電子化による契約の電子化のみならず、見積から契約、請求までの取引全体を電子化できる柔軟性により、ERPや基幹システムなどとのシステム連携が可能です。このことから、従業員数1,000名以上の大企業において高く評価され、製造、流通、金融、通信、サービス、建設など幅広い業界のトップ企業で利用されております。