スキャナ保存と電子契約 | 電子契約

日鉄ソリューションズ株式会社
斎木康二
「3万円以上でも電子契約できるの?」の誤解
お客様に電子契約の紹介をしていると、「3万円以上の契約では、契約書を電子データで保存してはいけないのでは?」とか「電子契約をはじめる前に、税務署に申請する必要があるんですよね?」といった質問をしばしばいただきます。
3万円の制限や税務署の承認が要件となるなのは、「国税関係書類のスキャナ保存」であり、電子契約の場合どちらも必要もありません。多くの方が、「国税関係書類のスキャナ保存」と「電子取引(電子契約を含む)情報の保存」を混同してしまっているのです。
今回は、「国税関係書類のスキャナ保存」と「電子取引(電子契約を含む)情報の保存」の違いを明らかにした上で、電子契約のメリットについてお話してみたいと思います。
「国税関係書類のスキャナ保存」と「電子取引(電子契約を含む)情報の保存」の根拠法令
どの企業でも取引先ととりかわした注文書や注文請書、納品書、請求書など(国税関係書類といいます。)を書面で保存し、税務調査に備えていると思います。
この国税関係書類の保存については原則として紙で保存しなければならないのですが、平成17年に改正された電子帳簿保存法第4条第3項で、一定の要件を満たせば、スキャナー入力した電子データで保存することが認められました。この法令で定められたものが「国税関係書類のスキャナ保存」の要件です。
一方、注文書や注文請書、納品書、請求書などを、書面ではなくPDFなどの電子ファイルでインターネットなどを経由して電子的に取り交わした場合、すなわち電子取引(電子契約を含む)を行った場合は、同法第10条(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)に定める要件にしたがって保存する必要があります。これが「電子取引(電子契約を含む)情報保存」の要件です。
つまり、「書面」で取引文書を取り交わした場合に文書を電子データで保管する場合には、電子帳簿保存法 第4条(国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存)第3項の要件に従う必要があり、「電子ファイル」で取引文書を取り交わした場合には同法第10条(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)の要件に従う必要があるのです。
「スキャナ保存」と「電子取引(電子契約を含む)」の保存要件の違い
では具体的に、主な両者の違いについて、下表にまとめましたので、見ていきましょう。(要件を網羅しているわけではない点ご留意願います。)
主な相違点
- 保存対象:スキャナ保存の場合、3万円以上の契約書・領収書は対象として認められません。これに対し、電子取引の場合、制限はありません。
- 税務署の承認:スキャナ保存の場合は必要ですが、電子取引の場合は不要です。
- 真実性の要件:スキャナ保存の場合はすみやかに電子署名&タイムスタンプを付与する必要がありますが、電子取引の場合は電子署名&タイムスタンプを付与するか、または「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程 」を定めることでも認められます。
いかがでしょうか。電子取引情報の保存と比較してスキャナ保存の要件が企業にとって負担になることがおわかりいただけるかと思います。
特に、3万円以上の契約書が対象として認められないことは、企業の導入意欲をそぐものであり、スキャナ保存がほとんど普及しない大きな要因となっています。(税務署への申請は2012年末時点で100社未満)
導入メリットの比較
では、以上の要件を満たして導入した場合のメリットについて「スキャナ保存」と「電子取引(電子契約を含む)」について比較してみましょう。
主なメリット | 主なデメリット | |
---|---|---|
スキャナ保存 | ペーパレスによる保管場所不要 DB化による検索性向上 |
スキャナ入力の手間 |
電子取引 (電子契約を含む) |
ペーパレスによる保管場所不要 DB化による検索性向上 印紙、郵送費負担などコスト削減 取引業務の効率化、スピードUP コンプライアンス強化 |
取引先の了解 |
表にあるとおり、スキャナ保存の場合の導入メリットは、保存のペーパレス化によるスペースと検索性などに限定されます。取引自体は従来とかわらず書面で行っているから当然です。
他方、電子取引(電子契約を含む)の場合は、保存のペーパレス化は当然として、むしろ取引の電子化にともなうコスト削減、業務効率化、コンプライアンス強化のメリットのほうがおおきいといえます。保存のペーパレス化は副次的な効果と考えられています。
おすすめ
ここまでのお話で、現在の法令のもとでは、スキャナ保存は導入のハードルが高く、メリットも少ないことをお感じになられたと思います。弊社としては、電子契約を導入し、その様々なメリットを享受した上で、さらに副次的な効果として保存のペーパレス化を実現されたらどうかと考えています。
電子契約導入のための20のヒント : 目次
1. 法令
1.1 電子帳簿保存法 : 電子契約で税務調査に対応できるのか?
1.2 電子帳簿保存法 : 電子契約と書面契約の混在に問題はないのか?
1.3 電子帳簿保存法 : スキャナ保存と電子契約
1.4 電子署名法 : 注文書や注文請書を本当に電子化して大丈夫か?
1.5 電子署名法 : 電子署名の証拠力
1.6 印紙税法 : 電子契約の場合、本当に印紙税を払わなくてよいのか?
1.7 下請法 : 下請法対応に関する注意点
1.8 建設業法 : 建設請負契約の電子化について
2. 技術
2.1 電子署名 : 電子署名・署名検証の作業イメージは?
2.2 電子署名 : 電子署名のしくみとはたらき
2.3 電子署名 : 電子証明書を選択する5つのチェックポイント
2.4 電子署名 : 長期署名について~10年を超える契約への対応~
2.5 タイムスタンプ : タイムスタンプの効果としくみ
2.6 EDI : 電子契約とEDIは何が違うのか?
3. 運用
3.1 導入目的 (ROI・購買プロセスの見える化) : 電子契約導入のためのROI算出方法
3.2 導入目的 (ROI・購買プロセスの見える化) : 電子契約による購買プロセスの見える化
3.3 機能 (契約書管理・カスタマイズ) : 電子契約の導入で契約書管理を劇的に改善
3.4 機能 (契約書管理・カスタマイズ) : 電子契約導入時に効果的なカスタマイズのご紹介
3.5 手順 (スモールスタート・取引先説明) : スモールスタートのすすめ
3.6 手順 (スモールスタート・取引先説明) : 取引先に参加してもらうにはどう説明すればいい?)