はじめまして。ITサービス&エンジニアリング事業本部クラウドプラットフォーム事業部の井平 竣也です。私の所属部署では、クラウドサービス事業の拡大をミッションに掲げています。私はその中で包括的クラウドネイティブ化支援サービス「CloudHarbor(クラウド・ハーバー)」のシステムエンジニアとして日々サービス企画や開発に参画しており、コンテナ関連の業務においてKubernetesを扱う機会も多いです。
Kubernetesと言えば、現代のシステム構築において欠かせない存在となりつつあります。多くの企業やプロジェクトがKubernetesを採用することで、スケーラビリティや柔軟性、運用効率の向上を実現しています。2023年の「Cloud Native Computing Foundation」(以下、CNCF)の調査によると、回答企業の84%が本番環境あるいは評価環境にてKubernetesを使用しているほどで、Kubernetesを適切に扱うための幅広い技術知識を習得し、運用経験を積んだリードテックになることは今後のエンジニアとしての価値を高めてくれるだろうと考えています。
そこで私は、Kubernetesに関する高度なスキル保持を証明する称号である「Kubestronaut(クベストロノート)」の獲得を決意して2025年5月頃から試験勉強を始め、同年8月に無事にその称号を受けることができました。約4ヶ月の取組みになったわけですが、資格取得のための学習を通じて多くのことを学びましたので、今後「Kubernetesのスキルを磨いていきたい」「Kubestronautを目指したい」と思っている方々に向けて、私の経験を共有できればと思います。少しでもご参考になると嬉しいです。
Kubestronautとは、CNCFがKubernetesコミュニティの成長促進を目的として提供する5つのKubernetes関連認定資格の全てに合格した方に贈られる称号です。このブログを執筆している時点で、グローバルでは約2,350名、日本国内では約90名の方が取得しています。なお、最新のKubestronaut認定者の一覧はCNCFのプログラムページにて参照できます。
5つの認定資格をまとめると下表のようになります。受験した個人的な感覚で難易度ランキング順も記載しています。他の方の体験記などを見ると、CKSの難易度が一番高いという意見が多いですが、私の感覚ではCKAとCKSは同じくらいの難易度に感じました。なお、難易度ランクについては、私が受験した1回の試験に基づく所感で作成していますので、あくまでご参考として読んでみてください。
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では実際に勉強内容について紹介します。前提として、私のKubernetesに関するスキルは以下のような状態でした。
このような状態からスタートして、勉強時間は合計で約80時間でした。以下、受験した資格順に勉強方法を紹介します。なおご紹介するUdemyコースは日本語にも対応しています。
UdemyのCKAコースを受講しました。
本コースは動画の中でKubernetesの基本的な概念と各コンポーネントの役割を体系的に学ぶことができます。また、本コース内で提供されるハンズオン環境を使った問題で、実際にKubernetesクラスタを操作しながら学ぶことができたのも良かったです。試験を申し込むと、Killer Shellの環境上で2回分模擬試験が受けられます。模擬試験を少なくとも8割程度は解けるようにしておくのが良いと思いました。
勉強時間は、Udemyの動画視聴に約20時間、ハンズオン環境での実践に約6時間、模擬試験に約6時間((模擬試験回答2時間+問題振り返り1時間)×2試験分))かけました。ハンズオン環境の問題は、基礎的な項目については飛ばしながら進めていったので、1項目平均10分で概算しています。Kubectlの利用経験がなければ、さらに時間をかける必要があると思います。
CKA同様、UdemyのCKADコースを受講しました。
CKAコースと重複している内容もあり、取り上げていなかったMulti-Container Pods、Observability、Pod Designを新たに学習しました。業務でKubernetes管理者の立場(=CKA関連)をとることが多かったため、アプリケーション開発者の視点(=CKAD的な内容)は重点的に学習し、デプロイメントやサービスの設定、Podのライフサイクル管理などの知識を深めました。
勉強時間は、Udemyの動画視聴に約6時間、ハンズオン環境での実践に約3時間、模擬試験に約3時間((模擬試験回答2時間+問題振り返り1時間)×1試験分))かけました。
Udemyにあった問題集を解きました。
KCNAは選択式のため自身の知識や経験量に応じて学習範囲を決めて、効率よく勉強しました。勉強時間は合計で約3時間でした。
KodeKloudで受講できるKCSAのコースを受講しました。
KCSAでは、Kubernetesのセキュリティに関する知識に加えて、一般的なセキュリティの知識(STRIDEなど)から、Kubernetesに関連するセキュリティツールの知識まで幅広く求められますが、このコースでそれら全てを学ぶことができます。
また、e-learning教材に加えて、Web上で無料公開されているKCSAの問題集を解きました(ソースコードもGitHub上で公開されています)。2025年8月時点では、KCSAだけは日本語版の試験が存在しなかったため、受験本番に備えて英語で勉強し、翻訳機能などもなるべく利用せずに英語の専門用語に慣れる努力をしました。それでも英文の読解に時間がかかったため、問題を解くスピードも意識しておくと良いと思います。
勉強時間は、KodeKloudの動画視聴に約3時間、問題集の実施に約3時間かけました。
KCSA同様、KodeKloudで受講できるCKSのコースを受講しました。
CKA、CKAD同様に、体系的にKubernetesのセキュリティに関する概念・関連ツール群の理解を深めることができます。CKSでは、Kubernetes以外のツールに関する操作も必要とされるため、扱えないといけないツールの最終確認は模擬試験を活用しました。
勉強時間は、KodeKloudの動画視聴に約9時間、ハンズオン環境での実践に約15時間、模擬試験に約3時間((模擬試験回答2時間+問題振り返り1時間)×1試験分)かけました。動画視聴はKCSAと重複する内容を省略した時間です。ハンズオンの問題は、扱ったことのないツールについての操作もあり、1項目平均で約20分はかかったと記憶しています。
私がこの称号を取得して感じたメリット3つもあわせて紹介したいと思います。
他のベンダー資格だと選択肢式の試験も多いですが、CKA、CKAD、CKSはハンズオン試験で、実際にKubernetesクラスタを操作しながら問題を解決する形式です。その分取得する難易度も高くKubernetesの仕組みを体系的に理解する必要があり、結果としてKubernetesの理解が非常に深まりました。
ハンズオン試験では、試験中にKubernetesの公式ドキュメントを参照しながら問題を解くことができます。具体的なコマンドは覚える必要がないですが、対応するドキュメントを素早く見つけるスキルが求められますのでしっかりと準備しましょう。ハンズオン試験に申し込むと、Killer Shellというシミュレータ形式の模擬試験がついてきます。問題に対して仮想環境上のコンソールからKubernetesクラスタを操作するイメージなので、慣れるためにも事前に活用しましょう。
最近ではKubernetesのマネージドサービスが普及しており、コントロールプレーンの管理はクラウドベンダーに任せることも多いと思いますが、Kubernetesの仕組みを理解することで、「クラウドベンダー側で何が管理されているか」、「自分たちは何を把握すべきか」を意識しながら業務に取り組めるようになりました。
また、Kubernetesオブジェクトの役割や使い分けを理解し、状況に応じて適切に活用できるようになりました。PodやDeployment、Serviceなどの基本的なオブジェクトは業務の中でよく使われるため資格取得前から理解していた部分もありましたが、ぱっと見同じような役割を備えているように感じるオブジェクト(例えばネットワーク関連のオブジェクトであるService、Ingress、Gateway API等)の違いを深く理解できました。業務の中で期待しない動作が発生した際に、その原因に関係しそうな要素がすぐに思い浮かぶようになり、トラブルシューティングのスピード向上にも繋がったと思っています。
例えば、Kubernetesのポリシー管理ツールであるOPA(Open Policy Agent)や、コンテナイメージの脆弱性スキャンツールであるTrivyなどです。私は業務の中でこれらのツールを使ったことはありませんでしたが、これらのツールの役割について理解することで、Kubernetesのセキュリティを強化するための選択肢が増えました。各種OSSのドキュメントやソースコードへの興味も湧き、引き続きクラウドネイティブ関連の情報取得を続けていき、可能であれば今後はOSSのコントリビュートなどにも挑戦してみたいと考えています。
さて、いかがだったでしょうか?今回私がKubestronautを目指したきっかけの一つは、過去に参加した技術イベントでKubernetes技術者の方々と交流した際、「Kubestronautの称号は社内外で強いアピール力がある」と実感する場面が何度もあったことです。そして今回実際に資格取得に向けて学習を進める中で、Kubernetesに関する幅広いスキルを習得でき、今後のキャリアやコミュニティ活動に取り組む上で大きな自信につながりました。
冒頭で記載した通り、今後Kubernetesに関する技術力はますます求められていくと思いますので、本記事がクラウドネイティブやKubernetesへの興味を持つきっかけとなれば幸いです。
ちなみに、私が企画開発に参画している包括的クラウドネイティブ化支援サービス「CloudHarbor(クラウド・ハーバー)」はサービス紹介カタログやクラウドネイティブ化の課題をまとめた関連資料なども公開していますので、ご興味あればぜひご覧ください。
また、NSSOLは複数の技術者イベントに協賛・出展しておりますので、機会があればそういったイベントで情報交換させていただけると嬉しいです。出展の様子は以下のブログでも紹介しています。
それでは、また別のブログでお会いしましょう!