まる見え!パブリッククラウド移行(1):基礎知識と米国メガクラウド4社の比較

2024.07.18
マルチクラウド 基礎 AWS クラウド活用
まる見え!パブリッククラウド移行(1):基礎知識と米国メガクラウド4社の比較

はじめに

皆さん、こんにちは。ITサービス&エンジニアリング事業本部(以下、ITS&E)クラウドプラットフォーム事業部の五味 なぎさです。今回初めて私のブログを読んでくださる方に向けて、自己紹介をさせていただきます。私が所属する部署はクラウドサービス事業の拡大をミッションとしており、当社が提供するマネージドクラウドサービスabsonne(アブソンヌ)の企画・運営・提案・導入や、Amazon Web Services(以下、AWS)、Microsoft Azure(以下、Azure)、Google CloudOracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)等のパブリッククラウドサービスを利用したシステムの提案・設計・導入を推進しています。皆様がクラウドをより深く活用するためのノウハウを定期的に発信していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
なお、これまで掲載された、5分でわかる、AWS Well-Architected Frameworkの要点AWSにおけるIPv6対応の基礎に関するブログも、ご興味があればぜひ読んでみてください!

今回から複数回にわたり「パブリッククラウドへの移行」をテーマにブログをお届けします。初回は、パブリッククラウド全般に共通する移行の基礎と、移行先を選ぶときのポイントについてです。今さら人には聞けない基礎から解説していますので、この機会にぜひ復習してみてください。

パブリッククラウド移行の基礎

移行メリット

市場ニーズを早急に捉えシステムに反映していく必要性が高まっている昨今、下記メリットから、パブリッククラウド移行の需要が高まっています。

  • 導入ハードルの低さ:従量課金でコストを抑えつつスモールスタートが可能
  • アジリティの高さ:即時でリソースの利用を開始可能
  • 運用保守性の高さ:クラウドサービスのカバー領域についてはユーザ側で運用不要
  • 非機能要求への対応:デフォルトで安価に利用可能なセキュリティサービスの提供がある、自動拡張が容易、サービス側で可用性が担保される等
  • BCP対策:複数DC構成、複数リージョン構成が容易

一方デメリットとしては、原則としてクラウドサービス側の仕様に則る対応となるため、利用者側でサービス仕様に合わせた設計・運用を行う必要がある点が挙げられます。

移行パターン

移行パターンとしては、大きく以下の3つが挙げられます。

※合わせて一部のアプリケーションをSaaSサービス等に移行するリパーチェス(Repurchase)を検討することもあります。

クラウド移行のパターン

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移行パターン 内容
リホスト(Rehost) 既存のオンプレミスサーバをアーキテクチャそのままにクラウドのIaaSサービス(AWSでいうEC2等)に移行する
リプラットフォーム(Replatform) OSやミドルウェアのバージョンアップ、同一ミドルウェアのPaaSサービス版の利用(Exadata Cloud、Autonomous Database、Amazon RDS、Azure SQL Database)など、アーキテクチャは大きく変更しないが、プラットフォームを移行する
リファクタ(Refactor) アプリケーションやアーキテクチャを作り替え、クラウドネイティブなシステムに移行する

参考:移行戦略(7R)の概要

一般的にリファクタ→リプラットフォーム→リホストの順にパブリッククラウド利用のメリットは享受しやすくなりますが、反対にアプリケーションやアーキテクチャの変更規模が大きくなり、移行のハードルも上がります。そのため、移行の目的や移行により得られるメリットを考えた上で、どのパターンを採用するか検討する必要があります。

移行先を考える:米国メガクラウド4社を比較

クラウド移行先を選ぶときに気をつけるポイントとしては以下が挙げられます。

  1. 各クラウドサービスのサービス仕様に準拠できるか
  2. オンプレミスからの移行性
  3. 利用製品やシステム特徴との親和性

1. 各クラウドサービスのサービス仕様に準拠できるか

「移行メリット」で記載した通り、クラウドを利用する場合はサービス側のサービス仕様に則った対応となるため、例えば企業のセキュリティ基準やシステムの可用性の基準、BCP対応の基準、等を満たすことができるかが重要な確認点となります。

2. オンプレミスからの移行性

クラウドサービスによって移行の際に取れる手段が異なる場合があるため、移行経路、移行ツール提供の有無、どのような移行手段が取れるか等を移行要件と併せて確認する必要があります。移行要件には、例えば下記のような観点があります。

  • 仮想マシンの移行が必要かどうか
  • 移行の際のシステム停止可能時間はどの程度か
  • 移行対象となるデータ量
  • 移行先へデータ同期が必要な範囲はどこまでか

3. 利用製品やシステムの特徴との親和性

利用している製品やシステムの特徴により、適するクラウドが変わってくる、もしくは利用可能なクラウドが絞られることがあります。例えばWindows Server等、Microsoft製品を中心に利用しているシステムの場合はAzureが適する、Oracle RAC(Real Applications Clusters)を利用したい場合にはOCIを選択することになる等です。利用目的や使い方と合わせてどのクラウドを利用するかの検討が必要です。

ではここで、米国メガクラウド4社(AWS、Azure、Google Cloud、OCI)について、上記3つのポイントからそれぞれの特徴を比較してみましょう(2024/6/7現在)。移行要件などによって適材適所で使い分けられるように、しっかり確認してみてください。

米国メガクラウド4社の特徴に関する比較表

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AWS Azure Google Cloud OCI

1.サービス仕様への準拠

用途によるため、要件実現のノックアウトファクターとなる仕様がないか要確認

2.オンプレミスからの移行性

  • 様々な移行フェーズ・対象に対応した豊富なツールを提供
  • AWS Migration Hub
    AWS Application Migration Service(MGN)等

  • 移行支援ツールを提供
  • サーバー、SQL Server、Webアプリ等の移行評価や移行実行に対応
  • Azure Migration

  • 主に移行実行をサポートするツールを提供
  • サーバーやデータベースの移行に対応
  • Migrate to Virtual Machines
    Database Migration Service 等

  • 仮想マシン移行の自動化※1や停止時間をほぼ発生させずにOracle DBを移行するツール※2などを提供
  • ※1Oracle Cloud Migrations

  • ※2Zero Downtime Migration

3.利用製品やシステムの特徴との親和性

  • 業界シェアNo.1
  • 利用可能なOSやミドルウェア、サードパーティツールが他クラウドに比べて多い
  • Windows ServerやMicrosoft 365などMicrosoft製品・サービスとの親和性が高い
  • ビッグデータや機械学習分野で先進性あり
  • 特にデータウェアハウスサービスであるBigQueryは他クラウドより優位性が高い
  • Oracle DBを最も制約なく利用可能
  • Oracle RAC構成を組むことやExadataの利用も可能
その他
  • 市場のエンジニア数や情報(個人ブログ等含め)量が最も多い
  • エンジニアの確保や情報収集が比較的容易
  • OCIとのクラウド間インターコネクトサービスを提供しており、Oracle DBのみOCI上に配置する構成を比較的容易にとれる
    (2024年6月にGoogle CloudもOCIとの接続サービスを発表)
  • VPCをリージョン跨ぎで作成可能など、マルチリージョン・グローバル利用をある程度前提とした仕様となっている
  • NATゲートウェイなど他クラウドでは有償のコンポーネントが無償で利用可能であり、コスト面で有利となるケースが多い

おわりに

今回は、パブリッククラウド全般に共通する移行の基礎と移行先を選ぶときのポイントについてご紹介しました。パブリッククラウド移行の需要が高まっている今だからこそ、まずは基礎からしっかりおさらいしていきましょう。
なお、当社ではAWS包括的技術支援サービスを提供しています。AWSへの移行でお悩みございましたらぜひ本サービスもご活用ください。その他、AWSをはじめマルチクラウド化に関するご相談全般はこちらからお気軽にお声がけください!

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