IPv4アドレスの課金、枯渇対策となるか?AWSにおけるIPv6対応の基礎

2024.03.04
マルチクラウド 技術 AWS クラウド活用 コスト削減 運用保守
IPv4アドレスの課金、枯渇対策となるか?AWSにおけるIPv6対応の基礎

はじめに

皆さん、こんにちは。ITサービス&エンジニアリング事業本部(以下、ITS&E)クラウドプラットフォーム事業部(以下、CPF)に所属している五味 なぎさです。
私が所属するITS&Eでは、主にITインフラ関連のプロダクトやサービスを取り扱っています。『Make IT Sustainable』というスローガンのもと、情報システム部門の皆様の日々の業務効率化や、「コア業務に集中できる環境づくり」をご支援させていただいております。
その中でもCPFはクラウドサービス事業の拡大をミッションとしており、当社が提供するマネージドクラウドサービスabsonne(アブソンヌ)の企画・運営・提案・導入や、Amazon Web Services(以下、AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform、Oracle Cloud Infrastructure等のパブリッククラウドサービスを利用したシステムの提案・設計・導入を推進しています。
以前、re:Invent2023の参加レポート(前編/後編)も書いておりますので、ご興味ある方はぜひ読んでみてください!

さて今回は、2024年2月1日から開始されたパブリックIPv4アドレスの課金体系変更(有料化範囲の変更)と、その対策の1つとしてAWSが奨励するIPv6対応についてお伝えしていきます。

パブリックIPv4アドレスの課金体系の変更について

これまではAmazon Virtual Private Cloud(VPC)内で「使用中」のパブリックIPv4アドレスは無料とされ、アカウント内の未割当のElastic IPアドレスおよび起動中のEC2インスタンスに割り当てられた追加(セカンダリ)のElastic IPアドレスのみ課金対象となっていました。しかし、この度の課金体系の変更により、稼働中のEC2で利用されるElastic IPアドレスや、NAT GatewayやELB等に付与されるパブリックIPアドレスについても課金対象となりました。

変更前後の料金体系

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パブリックIPアドレスのタイプ 現在の料金/時間
(USD)
新料金/時間
(USD)
※2024年2月1日より適用
VPC内のリソース、Amazon Global Accelerator、AWS Site-to-Site VPNトンネルに割り当てられた、使用中のパブリックIPv4アドレス(AWSが提供するパブリックIPv4アドレスおよびElastic IPアドレスを含む) 無料 $0.005
起動中のEC2インスタンスに割り当てられた追加(セカンダリ)のElastic IPアドレス $0.005 $0.005
アカウント内の未割り当てのElastic IPアドレス $0.005 $0.005

課金額は$0.005/hで日本円に換算すると500円強/月(1$=150円換算)のため、影響の少ないケースも多いと思いますが、一方でパブリックIPアドレスを多量に利用しているケースや、小規模システムにおいて全体の利用額が小さい場合には、気になる変更なのではないでしょうか。私自身も検証環境において課金に該当するパブリックIPアドレスの利用があったため今回を機に棚卸をしましたが、思わぬ課金が発生しかねないと実感したため、同様の課題感を持たれている方々に向けて今回のアップデートをお伝えしたいと思いました。

ちなみに、今回の有料化範囲の変更に伴い、Amazon VPC IP Address Manager※1の新機能である Public IP Insights※2の無償提供が開始されました。本機能により、AWSユーザはIPv4アドレスの利用状況について現状把握がしやすくなりましたので、今後の課金額をしっかりと把握してコスト最適化に向けて備えていきましょう。

以下のように使用中のパブリックIPのタイプとElastic IPの内訳を確認可能です。

Public IP Insights画面

Public IP Insights画面

価格変更の背景とIPv6の採用の奨励

価格変更の背景にはIPv4アドレスの枯渇問題※3があり、実際にAWSによるIPv4アドレスの取得コストも過去5年間で300%以上上昇しているとのことです※4

AWSとしては、今回の価格変更と共に、IPv4アドレスの保全策としてIPv6の採用を奨励しています。実際にここ半年程度のアップデート情報を見ても、IPv6に力を入れていることが感じられます。

半年間(2023/9~2024/2)のIPv6対応関連のアップデート情報

IPv6の利用は、パブリックIPv4アドレスの有料化に伴う対応だけでなく、システム内でのプライベートIPv4アドレス重複時(枯渇時)の回避策として挙げられるケースもあります。通常、拠点間、システム間のIPv4アドレス帯を重複せざるを得ない場合にはNATが利用されるケースが多いですが、NATにより構成が複雑になり※5、設計工数が増す上に、導入後も思わぬ事故を招くこともあります。この場合、新システム側をIPv6で構築することで解決できることもあります※6。実際の案件においても、(実際導入には至りませんでしたが)類似の状況でIpV6の導入をAWS様と検討したことがあります。

IPv4のNATのイメージ

(※5)IPv4のNATのイメージ

IPv6を利用した場合のイメージ

(※6)IPv6を利用した場合のイメージ

現状ではIPv4に比べてIPv6の普及率は低く、完全な切替は難しいと思いますが、IPv4/IPv6のデュアルスタックに対応したサービスや、IPv6からIPv4に変換可能な技術(DNS64、NAT64)が利用可能になっており、徐々にIPv6の利用ハードルは下がっているように感じます。まずはIPv4関連でIP重複や枯渇、コスト面での課題などに遭遇した際に、対応策の1つとして検討してみてはいかがでしょうか?

なお、本記事内では触れておりませんが、IPv4とIPv6の違いやIPv6の利点については以下のページが参考になります。

おわりに

さて、今回はパブリックIPv4アドレスの課金体系変更の内容と、関連してAWSが奨励するIPv6対応に関する情報を共有しました。次回は2回に渡って、実際にVPC内でIPv6を利用する際の設定手順について解説していこうと思いますので、より実践的なノウハウについて知りたい方は、ぜひ次回のブログもお楽しみにしてください!

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今回と次回では、実際にAmazon Virtual Private Cloud(VPC)内でIPv6を利用するための設定手順をご紹介していきます。ちなみに、AWSでは多数のサービスでIPv6に対応していますが、今回はVPC上のEC2でIPv6通信を可能にする設定方法に絞り、以下の作業について説明していきます。