クラウド技術の進化にともない、企業のIT環境も大きく変化しています。なかでも、仮想デスクトップ環境を手軽に構築できる「Azure Virtual Desktop(AVD)」が注目されています。 この記事では、AVDについて知りたい方に向けて、AVDの基本知識や利用シーン、AVDの特長や導入するメリットと併せて、Windows 365との違いについて解説していきます。
Azure Virtual Desktop(AVD)は、Microsoft社が提供するクラウドベースの仮想デスクトップインフラ(VDI)ソリューションです。AVDの歴史は比較的新しく、2019年に従来のリモートデスクトップサービス(RDS)の進化系として登場しました。
AVDは従来のVDI(Virtual Desktop Infrastructure)とは異なり、クラウド上で利用可能な仮想デスクトップ環境を提供するDaaS(Desktop as a Service)です。そのため、インフラの管理やメンテナンスの負担が大幅に軽減されます。また、スケーラビリティが高く、ユーザー数の増減に柔軟に対応できる点も特長です。
AVDはさまざまなシーンで利用できます。ここでは、主要な利用シーンについて見ていきましょう。
AVDを活用すれば、セキュアなテレワーク環境を簡単に構築できます。AVDはDaaSであるため、インターネットを通じて場所やデバイスを問わず、仕事で利用するアプリケーションやデータへ安全にアクセスすることが可能です。そのため、仕事環境にどこからでもアクセスでき、自宅でもサテライトオフィスでも場所を問わずにテレワークを実現できます。また、AVDはBCP(事業継続計画)対策としても有効です。クラウド上にデスクトップ環境があるため、災害時や緊急時においても迅速に業務を再開できます。
AVDはBYOD(Bring Your Own Device)環境の安全な実現も可能です。従業員が自身のデバイスを使用して業務を行う場合でも、データは全てクラウド上に保存されるため、端末紛失などによる情報漏洩のリスクを大幅に低減できます。また、クライアント端末の性能にかかわらず、ハイスペックかつ安全な仮想マシン上で作業ができるため、従業員の生産性向上にもつながります。
AVDでは、必要なときに必要なスペックの環境を素早く構築し、使用後は簡単に削除できます。そのため、開発・テスト環境として利用する際も大いに役立てることが可能です。従来、開発・テスト用の環境を準備するためには多くの労力とコストが必要でした。しかし、AVDを活用することで、開発プロジェクトの効率化やコスト削減を実現することが可能です。開発用端末の手配・管理におけるDaaS活用に関しては「開発環境のお悩み解消!最適な環境を提供する「DaaS」という選択肢」で詳細をご紹介していますので、ぜひご覧ください。
AVDの特長を紹介する前に、仮想デスクトップソリューション全般の導入メリットについて解説します。もちろん、AVDを導入するメリットにもなるため、一つずつ見ていきましょう。
AVDを含む仮想デスクトップソリューションは、セキュリティ面で大きなメリットがあります。データがサーバー上またはクラウド上に保存されるため、端末の紛失や盗難によるデータ漏洩のリスクが大幅に低減されます。これは、外出先でデータを参照する機会の多い場合や、テレワークなどの際に非常に有効です。また、多要素認証やアクセス制御などの高度なセキュリティ機能も簡単に実装できます。
仮想デスクトップはネットワークを通じてデスクトップ環境に接続するため、導入することで場所や時間を選ばず業務を遂行できます。仮想デスクトップ環境を構築することで、テレワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方を実現しやすくなるでしょう。また、デバイスに依存せず同じ環境で作業できるため、業務の効率化にもつながります。
すべてのデータがローカルデバイスではなくサーバー上またはクラウド上に保存される点は、端末の盗難・紛失といった物理的なセキュリティインシデント対策の観点からだけでなく、データ損失のリスク回避の点でも有用です。例えば、端末の故障や災害などの有事の際でも、操作している端末とは異なる場所にデータを保存しているため、データ損失のリスクを大幅に低減できます。また、定期的なバックアップやスナップショットの作成も容易になり、データの保護と復旧が簡単に行える点もメリットの一つです。
AVDは他の仮想デスクトップソリューションにはない独自の特長があります。ここからは、AVDの独自の3つの特長を見ていきましょう。
AVDの最大の特長は、Windows 10/Windows 11のマルチセッション機能をサポートしている点です。多くの仮想デスクトップソリューションやWindows 365では、シングルセッション機能しかサポートしていません。しかし、AVDであれば1台の仮想マシンを複数のユーザーで共有でき、リソースの効率的な利用とコスト削減を実現できます。
AVDでは「FSLogix」という技術を使用しています。FSLogixは、ユーザープロファイルを管理する機能を提供し、Windows 10/Windows 11のマルチセッション機能に欠かせない存在です。FSLogixを利用しない場合、ユーザープロファイルは仮想マシン上に保存されますが、FSLogixを利用するとユーザープロファイルはファイルサーバー上に保存されます。このユーザープロファイルはFSLogixを利用する仮想マシンの間で共有されるため、異なる仮想マシンにログインしても一貫したユーザープロファイルを利用できるのです。そのため、FSLogixによってログイン時のプロファイル読み込みが高速化され、ユーザーエクスペリエンスが向上します。FSLogixによるプロファイル管理の有効性については「仮想デスクトップのユーザープロファイル管理に「FSLogix」は有効か」で検証結果とともにご紹介していますので、こちらもご覧ください。
AVDはMicrosoft製品とシームレスに連携でき、特にMicrosoft 365アプリケーションのパフォーマンスが最適化されています。Microsoft 365アプリケーションには、WordやExcel、Outlook、Teamsなどの業務で頻繁に利用するOffice製品が含まれます。Office製品との高い親和性は、従業員の生産性を維持するためにも欠かせない要素の一つと言えるでしょう。
AVDと混同されがちなサービスとして「Windows 365」が挙げられます。Windows 365は2021年にリリースされたクラウドPCサービスです。クラウド上のWindows環境にアクセスできる点はAVDと同じですが、両者には下記のような違いがあります。
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AVDとWindows 365の違いについて、一つずつ見ていきましょう。
AVDとWindows 365の最も大きな違いは、セッション方式です。AVDはシングルセッション方式だけでなく、マルチセッション方式にも対応しています。一方、Windows 365はシングルセッション方式のみのサポートです。マルチセッション方式では、1台の仮想マシンを複数のユーザーで共有でき、リソースの効率的な利用とコスト削減効果が期待できます。対して、シングルセッション方式は1人のユーザーが1台の仮想マシンを専有する方式であり、よりパーソナライズされた環境を構築できます。
Windows 365は、AVDに比べて導入と管理が容易です。ユーザーごとに固定の仮想マシンが割り当てられるため、管理が直感的でわかりやすい点が特長となります。一方、AVDは柔軟性が高く、より細かな設定や最適化が可能です。ただし、細かく設定できる分、導入や管理にはある程度の専門知識が求められます。
AVDは仮想マシンの稼働時間やストレージ容量など、使用したリソースに応じて料金が発生する料金体系です。対して、Windows 365はユーザーごとに固定の月額料金を支払う形式となります。AVDは適切に管理すれば、Windows 365よりもコスト効率が良くなる可能性がありますが、使用量の変動によってコストが変動する点に注意が必要です。
これらの違いから考えると、大規模な環境や詳細なカスタマイズが必要な場合はAVD、小規模な環境で利用する場合はWindows 365、というように使い分けることが推奨されます。
Azure Virtual Desktop(AVD)は、クラウドベースの仮想デスクトップソリューションとして、多くの企業に注目されています。Windows 10/Windows 11のマルチセッション機能や、FSLogixによる高度なプロファイル管理などの独自の特長を持つAVDは、セキュアで効率的な業務環境の構築に大いに役立てられています。その他にも、テレワークやBYODの導入、開発環境の効率化など、さまざまな課題解決に活用できるAVDは、今後のビジネス環境において重要な役割を果たすことでしょう。
日鉄ソリューションズでは、AVD環境の構築から運用までを一元的なサービス「M³DaaS for Azure Virtual Desktop」として提供しています。導入および構築に留まらず、利用状況のモニタリングや運用サポートまでワンストップで実施します。7,000名を越える自社での利用実績をはじめ、豊富な大規模導入・運用の経験を活かし、最適なソリューションをお届けします。また、Windows 365の導入に関しても別途サポートしているため、AVDやWindows 365の導入を検討されている場合は、ぜひ一度お問い合わせください。